(TOP)        (戻る)

リッカルド・ムーティ語録:イタリア・オペラ・アカデミー・3

ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」

リッカルド・ムーティによる東京春音楽祭・イタリア・オペラ・アカデミーは当初2019〜21年の3年で行われる予定でしたが、世界的なコロナ蔓延でそれが果たせず、第3回目の「仮面舞踏会」の実施は2023年にずれてしまいました。吉之助は2023年の回もリッカルド・ムーティによるイタリア・オペラ・アカデミーの「仮面舞踏会」作品解説とリハーサルの一部を聴講しました。メモを捨ててしまうのはとても惜しいので、サイトに記録として残しておくことにしました。ムーティの人柄が分かると同時に、作品理解の参考にもなろうかと思います。ムーティの言葉は同日の同時通訳をメモったものですが、もし不明な点があれば、それは吉之助の責任です。


〇2023年3月18日・東京文化会館大ホール
ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」作品解説

「仮面舞踏会」は、ヴェルディ中期のなかでも特別な作品と云える。「トラヴィアータ」や「リゴレット」では、ヴェルディは自分自身を主人公に投影して書いている。一方、「仮面舞踏会」では主人公リッカルドを外から見ているようなところがある。悲劇であっても笑顔で見ているような。特徴的なのはオスカルですが、ヴェルディのなかでも特別なカラーを持った作品である。室内楽的なところもありながら、シンフォニックなところもある音楽です。

・前奏曲の出だしは、何かを探しているような、自分自身に質問を投げかけているような感じがします。

ヴェルディはナポリ楽派の研究をよくして・パレストリーナの影響を強く受けています。つまりヴェルディの音楽は真面目なのです。厳格なのです。

・舞台はショーを見せる場ではなく、あくまで神聖な場所です。そこでは受け手である聴衆の見識も問われているのです。

ヴェルディはこう言った。「作品変更についてのすべて、タイトルを変える・場所を変える・時代設定を変える・登場人物の性格を変える、そんなことをするならば、私の作品をやらせません」。


〇2023年3月19日・東京文化会館大ホール
ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」・オーケストラ・リハーサル・第1日

・(指揮者に)いきなり振らないで。オーケストラを驚かせないでください。十分な準備が必要です。

・ヴェルディは、音楽的に・と云うよりも技術的に、ワーグナーよりも難しいかも知れませんね。

・言葉が聞きたいのです。

・ピアニシモはアートですよ。ダイナミクスも大事だけれど、もっと大事なことはカラーです。そのためには形容詞に注意すること。形容詞がカラーを示しているからです。

・指揮者はどういうカラーが欲しいのか、明確にオケに示さねばなりません。

・二拍を振る時の動きはタテでも良いが、三拍で同じようにすると3はどこ?ということになりやすい。三拍を振る時は、タマゴのように丸く振ることです。

・第1幕。リッカルドは笑っているけれども、心のなかまでは分かりません。


〇2023年3月21日・東京芸術大学第6ホール
ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」・オーケストラ・リハーサル・第3日

・第3幕第2場。陰謀者たちはレナートに呼ばれたのです。レナートは裏切られたのです。誰がリッカルドを殺すか決める時にアメリアが部屋に入って来る。運命がレナートを引き寄せる、すごく奥深い場面なのです。最後のシーンはほとんど勝利のようですね。

・(指揮者に)オーケストラと対話してください。

・ヴェルディが楽譜に書いているタイミングはドラマ的にまったくパーフェクトなものです。どうしてそれを何十年も掛けてそれを壊そうとするのですか?

・ヴェルディは運命を告げる場面では必ずトランペットですね。

・(歌手達に)歌いながら演じるのではなく、演じながら歌うのです。ここは劇場なのですから。

・音楽的に・楽譜的に正しいかではなく、カラーをはっきりと出してください。

アウレリアーノ・ペルティレの録音を聴いたことがありますか?トスカニーニが最も信頼した素晴らしいテノールです。

・墓碑銘は「生涯をかけて、四分音符・八分音符・十六分音符の正確さ・厳格さを追求した愚かな男、ここに眠る」とでもしてもらいたいね。(冗談)


〇2023年3月24日・東京文化会館大ホール
ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」・オーケストラ・リハーサル・第5日

・第3幕第3場バンダ。既に主人公の死を予感しているかのように。

・(指揮者に)これは常に問題になることですが、歌手が歌う時にはバンダは聞こえなくなります。だから指揮者が音楽と一体にならなければ。バンダはテンポを変えられないのだから、歌手はバンダに乗って歌ってください。

・フォルティッシモであっても音楽でなければなりません。バーンとピストルを撃つようなことはしない。

・オーケストラと一緒に歌ってください。室内楽のように。

・ヴェルディは早いテンポが好きですけれど、あまりプレッシャーを掛けないように。

・第2幕アメリアとリッカルドの二重唱。(指揮者に)フルートとヴァイオリンが表現するものは緊迫感?不安?何を意味しているのか?自分が感じていることをその通りオケに伝えること。

・イタリアの墓場はとても恐ろしい・怖いところです。イギリスの墓場とは全然違います。

・常にレガートを意識して。劇場ですから。演劇ですからね。


〇2023年3月25日・東京文化会館大ホール
ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」・オーケストラ・リハーサル・第6日

・第1幕第1場。陰謀者はリッカルドに対して怒っているカラーをはっきり見せること。

・オペラはずっと連なっていくものなのだから、シンプルにやってください。

・音楽学校は音符を拾うことばかり教えて、旋律を歌うことを教えませんね。

・テンポは必ず演劇のことを考えて決めなければなりません。

・「仮面舞踏会」はロマンティックな内容だけれど、シンプルで古典的な形で書かれています。演出家はいろいろ解釈するだろうが、「仮面舞踏会」は古典的なオペラなのです。

・トスカニーニは「腕はあなたの心の延長でしかない」と言いました。今は腕は腕。テクニックを聴衆に見せるためのものになってしまいました。これは心理的な問題ですね。

・(指揮者に)オケのフレーズが終わるところでゆっくりと止めてください。まだ動いている汽車を無理に止めるようなことはしない。

 

(追記)2019年の「リゴレット」、2020年の「マクベス」、2024年「アッティラ」でのムーティ語録もご覧ください。

(R5・10・16)


 



 (TOP)         (戻る)