六代目菊之助と八代目菊五郎の「連獅子」
令和7年6月歌舞伎座:「連獅子」
六代目尾上菊之助(七代目尾上丑之助改め)(狂言師左近後に仔獅子の精)、八代目尾上菊五郎(五代目尾上菊之助改め)(狂言師右近後に親獅子の精)、二代目中村獅童(法華の僧蓮念)、六代目片岡愛之助(浄土の僧遍念)
(八代目菊五郎・六代目菊之助襲名披露狂言)
本稿は令和7年6月歌舞伎座での、八代目菊五郎・六代目菊之助襲名披露興行・夜の部の襲名披露狂言・「連獅子」の観劇随想です。この数年「連獅子」はまたかと思うほど頻繁に出ますが、まあそれぞれの組み合わせにそれぞれのストーリーありと云うことで、今回の新菊五郎・新菊之助もまた格別なストーリーを見せてくれました。
今回の「連獅子」は特に前半が素晴らしい。新菊之助の良さは役の雰囲気をしっかり掴んでいるところにあると思います(これは簡単そうでいて・なかなか出来ることではない)が、今回の狂言師左近も腰を落としたすり足の足さばきなどホント大したもので、まさに足が床に吸い付いた感覚、登場した時から覚悟が極まっていますねえ。新菊五郎の狂言師右近はゆったりと包容力のある踊りで息子に対して、そこから能の石橋物のストーリーが立ち上りました。吉之助もずいぶん色んな組み合わせで「連獅子」を見ましたが、こんなに落ち着いた静かな気分で前半を見るのは初めての気がしました。セカセカした感じが全然ないのだねえ。イヤそう書くと他の舞台がセカセカしていたように聞こえたかも知れませんが・そう云うことではありませんけど、今回の「連獅子」は吉之助には、踊りという動的なイメージを超えて、父と子の内面の声なき対話に静かに耳を傾けるような不思議な気分に感じられたのです。それだけ気合いが入った立派な踊りであったという事だと思います。
昨今の「息子よ、俺に付いて来い」みたいにブンブン勢いよく毛を振り回す後シテの獅子を見慣れた方には、今回の親子の獅子の毛の振り具合は回数が控えめだし、大人し過ぎて物足りないと感じる向きが少なくないかも知れません。しかし、勢いが良過ぎると品位が落ちます。本来はこのくらいがちょうど良いのです。能取り物の品位は大事なことです。
そう云うわけで見る前はまた「連獅子」かと云う気分でしたが、見終わってこれまでと一味違った結構な「連獅子」を見せてもらったと感謝したいですね。新菊五郎・新菊之助親子の門出を心から祝したいと思います。
(R7・6・11)