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カラヤンの録音(1985年1月〜6月)

1985年6月29日:ローマのサン・ピエトロ寺院で法王ヨハネ・パウロU世によるミサの法典にウィーン・フィルを率いて参加。モーツアルトの戴冠式ミサを指揮。


○1985年1月20日〜30日

モーツアルト:歌劇「ドン・ジョヴァン二」

サミュエル・レイミー(ドン・ジョヴァンニ)/パータ・ブルシュラーゼ(騎士長)
アンナ・トモワ・シントウ(ドンナ・アンナ)/エスタ・ヴィンベルイ(ドン・オッターヴィオ)
アグネス・バルツァ(ドンナ・エルヴィーラ)/フェルッチョ・フルラネット(レポレッロ)
アレクサンダー・マルタ(マゼット)/キャスリーン・バトル(ツェルリーナ)
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ザルツブルクでの舞台上演ではウィーン・フィルを起用していますが、このスタジオ録音ではベルリン・フィルです。オペラ・特にモーツアルトではこれ以上のものはないウィーン・フィルを使わず、ベルリン・フィルを使うのには当然カラヤンなりの狙いと自信があるのでしょう。まず序曲ではぺルリン・フィルの引き締まった旋律線・鋭敏なリズム感が際立っています。冒頭の全奏などはウィーン・フィルのライヴ録音の方が低音が効いて迫力がある気がしますが、恐らくカラヤンはそれよりも序曲中間部で聴こえるリズムの軽さ・線の明確さをベルリン・フィルに求めたように思われます。その成果は随所に出ているようです。レイミーのドン・ジョヴァン二は若々しく引き締まった歌唱で、カラヤンの意図にふさわしい青春のドン・ジョヴァン二です。フルラネットのレポレッロも好演です。女声陣も充実していますが、ツェルリーナを歌うバトルが可愛らしく魅力的です。


○1985年1月26日ライブ

ブラームス:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポは83年の演奏よりも心持ちたっぷりとしていて、より旋律を豊か歌わせようとする方向に行っているようです。また、ベルリン・フィルの響きの透明度も一層高くなって、叙情味が増したと言えそうです。83年の演奏が内側に意識のベクトルを向けて凝縮した表現を目指してしるとすれば、この演奏ではその力をやや外に向けて解放したというような感じを受けます。両端楽章はテンポに幅を持たせて、表現のダイナミクスが大きく見事な表現です。特に第4楽章終結部はテンポをぐっと落としてスケール大きく締めます。


○1985年2月6日〜9日

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

四つの楽章が緊密に組み合わさって交響曲のフォルムにぴったりと納まっています。それでいて・旋律が自在に歌われて・音楽に窮屈なところをまったく感じさせません。ドヴォルザークの旋律美が生きています。ウィーン・フィルの響きは重いところがなくて・実に透明で軽やかです。純音楽的なスッキリした美しさがあって・実に後味の良い演奏です。特に前半2楽章が素晴らしいと思います。第1楽章は冒頭から情感に溢れて、眼前に展開する音の風景が実にスリリングです。第2楽章はセンチメンタルなところがなく・澄んだ叙情味がって・爽やかでさえあります。第3〜4楽章もリズム感が良く、活気に溢れた音楽で喜びに満ちています。ウィーン・フィルの弦の澄んだ美しさ、木管のニュアンスの豊かさが印象的です。


○1985年2月18日〜20日

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

レオン・シュピーラー(ヴァイオリン独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

全体の構成がスッキリと見渡されていて、表現が実に明快です。カラヤンが得意にするR.シュトラウスなので見事なのは当然ですが、感嘆するのは響きが豊穣であるのに・旋律線が引き締まって聴き手に直接訴えかけるてくるような気がすることです。各場面の性格がくっきりと描き分けられていること、それでいて計算されたような感じがなったくなく、旋律が豊かに息付き・音楽が生きています。テンポは心持ち早めで展開し、音楽がダイナミックに変化していきます。ベルリン・フィルの素晴らしさは言うまでもないですが、愛の場面での弦の艶やかな響き・情感の深さは比類ありません。この曲の理想的な形を示した演奏であると言えるでしょう。


○1985年2月23日ライヴ

ブラームス:交響曲第3番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポを速めにとって、ベルリン・フィルの重厚な響きでブラームスらしい量感がある演奏です。高弦の分厚い響きが魅力的です。特に両端楽章がリズム感と躍動感あって、生き生きした表現です。その一方で、第3楽章は速めのテンポで甘くなることを意識的に避けているような表現になっているのも納得できる気がします。83年のザルツブルクでの演奏と比べると、やや線が太くなって重厚な表現になっていますが重苦しいことはなく、リズムは斬れていて推進力があります。旋律の歌わせ方に独特の粘りがあって、ブラームスのロマンティックな音楽の魅力を堪能させます。


○1985年5月25日

スメタナ:交響詩「モルダウ」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

カラヤンの情景描写の巧みさが生きています。旋律を伸びやかに歌わせて・実に音楽的ですっきりして聞こえます。展開していく音のドラマがワクワクするようにスリリングで、聴き終わると一幅の絵画のように自然の喜びを描きつくしたように感じられます。ウィーン・フィルは響きが透明で・重いところがなく、出たしから音楽に引き込まれます。


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